usaginingen（ウサギニンゲン）は、2011年にドイツ・ベルリンで結成されたアーティストグループである。自作の映像機と楽器を用いた独自のパフォーマンスは、アナログとデジタルを混在させた独創的な表現手法として国際的に評価され、2014年にはアイスランドで開催されたReykjavik Visual-Music Festivalでグランプリを獲得。2021年にはApple Japanの広告にも登場し、これまでに28ヶ国で公演を重ねてきた。メンバーは音楽や機材製作、コミュニティ活動の仕掛け役を担う平井伸一、映像や絵画などビジュアル面を担当する平井絵美、そして2024年からパフォーマンスに参加し朗読や影絵を担う現在6歳の息子・平井海凪による家族3人編成である。

2016年に移住先として選んだのは、瀬戸内海に浮かぶ人口約700人の離島・豊島（香川県）。かつて産業廃棄物の不法投棄で知られたこの島は、いまや豊島美術館や瀬戸内国際芸術祭の開催地として国内外から注目を集める“アートアイランド”へと変貌を遂げている。usaginingenはここに「ウサギニンゲン劇場」を開設し、ベルリンで培ったライブパフォーマンスのスタイルを継承しながら、地域に根ざした新たな試みを次々に展開。単にアーティストとして作品を提示するだけでなく、“生活そのものを作品化する”という包括的な創造活動を実践している点が最大の特徴だ。自給自足的な暮らしやコミュニティづくりを一つのプロジェクトと位置付け、DIYによって生活環境自体を再設計し、“単なる田舎暮らし”を超えたアート空間を創出している。

象徴的な取り組みとしては、まず耕作放棄地を活用した公園整備が挙げられる。竹や流木を素材に遊具を制作し、窯や畑を組み合わせた場づくりを行うことで、訪れる人々に農作業や食のプロセスを体験させている。男性優位の社会構造が色濃く残る地方において、子どもや母親の声をあえて中心に据えることを重視し、“子どもと女性のための創造拠点”を目指す狙いもある。また、IoT技術を取り入れたスマート農業など、テクノロジーとローカル資源を柔軟に掛け合わせる姿勢も特徴的だ。

2023年からは、使われなくなっていた旧乳児院の3階建てビルを文化施設へ転用する「ShinAiKan」プロジェクトを始動。パフォーマンスやワークショップ、展示会、ポップアップレストランなどを定期的に開催し、アーティスト・イン・レジデンス機能も備える拠点へと再生を図っている。2025年からは東京芸術大学と香川大学のサポートを得て、島独自の「自分たちで作る祭」の在り方を探求し、同年2月に地元保育園の家族や近隣諸島の協力者とともに大規模イベントを初めて開催。地域コミュニティと芸術活動を結びつけるモデルケースとして、温かな祝祭空間を創出した。

パフォーマンスの領域でも大きな変化がある。夫婦2人で行ってきたステージに、2024年から息子が加わったことで、家族という社会の最小単位のチームが拡張され、地域全体への波及力はさらに増大。同年には岡山県瀬戸内市の依頼で初の野外インスタレーションを制作し、映像担当の平井絵美は2021年から継続中の絵画活動をさらに深化させ、数回の個展開催や2024年の初の絵本出版を実現している。こうした家族単位から地域コミュニティへと広がる相互作用こそが、usaginingenの表現活動をユニークたらしめる大きな要因だといえる。

usaginingenの実践は、ベルリンで培った映像と音の融合パフォーマンスを核としながらも、DIY精神やテクノロジー、教育プログラム、地域文化の再生など多岐にわたる。一つの作品形態やジャンルにとどまらず、むしろ移動可能なアトリエや劇場が各地に生成されては、人と人、土地と土地を結びつける“移動型文化活動”としての性格を強めているのだ。ライフスタイルと創作活動を有機的に結合し、ローカルの課題をアートで解決・深化させるその手法は、家族という社会の最小単位が拡張し、地域コミュニティや自然環境と有機的に結びつくことで生まれる新しいアートのかたちを鮮やかに示している。今まさに、瀬戸内の地で暮らす日常すらも作品として組み上げる新たなステージを切り拓いており、そこに足を踏み入れるだけで“ものづくり”の根源的なエネルギーと未来へのビジョンを体感できるだろう。これは彼らが掲げる“暮らし全体が作品”という理念の、揺るぎない証左である。